必ずブランディング通になれる3分で読めるエッセイ〜ブランドのチカラ

ブランディング・コンサルタントの経験譚。Barで若きマーケーターとスコッチ飲んで話す気分で。ブランディング & マーケティング・コミュニケーションのあれやこれや。毎週土曜日に。

其の29 関西電気保安協会のブランディング

 

大阪の人は赤ちゃん以外はほぼ全員が知っている、 東京の人は殆ど知らないTVCMは何か?

 

...答えは、関西電気保安協会のTVCMです。ちゃんというと、東京の人だけじゃなく、大阪圏以外の人は全国の誰も知らない名シリーズです。つまりはローカルCMですね。

マーケティング や広告の仕事をしている人じゃなく、大阪人*1じゃない人、手をあげてください。😁  知ってます? このCM。

 

四の五の言う前に、まずどんなCMなのか見て頂きたいと思います。

 

 

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どうでしたか? 

「公共サービスなのに、このふざけっぷりは何事か!」と怒ってしまう人が少なからずいそうですね。😄 実はこの関西電気保安協会のCMシリーズ、以前ご紹介したキンチョーの面白TVCMシリーズを一手に手掛けてきた関西電通の通称「堀井チーム」の長年にわたる仕事なんです。

 

広告業界にはオリエン、またはブリーフィングという言葉があります。広告主が広告代理店、ディレクター、デザイナーに仕事を依頼するときに、対象となる製品・サービスの内容や、予算規模、希望する広告仕様などの指示をすることです。

 

オリエンと言うのは、オリエンテーションの略です。これを受けて、一定期間の後に広告代理店など制作側が「こんなんでどうでしょう?」と提案をすることをプレゼンテーション、略してプレゼンと言います。

 

さて、関内電気保安協会のオリエンがどうであったかは分かりませんが、想像するに「漏電の検査しますて言うたかて、おっさんを家にあげてくれるオカンなんかおらんのや。拒絶されんようにするCM作れへんか? 言っとくけど予算はないで。」*2てな感じだったんではないでしょうか。

 

1998年に出版された広告批評別冊「堀井博次グループ全仕事」に関西電気保安協会のCMを制作した堀井さんの述懐が載っています。大変面白いので、以下全文。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

関西電気保安協会というのは、家庭の漏電の検査とか安全の点検を受け持っている法人なんですけど、名前が知られていないために、なかなか家に上げてもらえないんです。押し売りと思われたり、うさんくさい目で見られたり。で、広告で名前を知ってもらえば作業がやりやすくなるんじゃないか、というのが始まりです。

 

で、まず考えたのは、15秒のなかで名前を何回言えるかということ。それから、本物の検査員の方に出演してもらうことです。当時、シロウトがテレビに出ることはまだ珍しかったからね。

 

CMの撮影は、いきなりカメラの前に立ってもらって、「あなたはこう言ってください」と直前に言うんです。で、緊張して、もう台詞言うのが精一杯という間に撮ってしまう。シロウトさんが自分を意識して芝居しだしたら、クサくて見ていられませんからね。

 

川崎(徹)さんに聞いた話やけど、このCMが東京コピーライターズクラブ賞の最終審査まで残ったとき、審査員の一人だった糸井重里さんが、「わかってやってたんだったらぜったい大賞だけど、わかってるのか偶然なのか、わからなかったので見送った」と言うてたそうです。

(堀井)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

糸井重里さんが「わかっているのか偶然なのか、わからなかった」と言っていたと人づてに聞いた時の堀井さんのほくそ笑む顔が思い浮かびます。偶然の面白さが出るのが必然と読んでいた天才的確信犯の堀井さんの常套手段のように思われます。

これは非常に難しいところを狙っている。

 

リアルな素人を出す手というのは、広告で失敗するケースはとても多いんです。どれがとは言いません。(殆どそうですから😭)典型はテスティモニアルキャンペーンという、実際の使用経験者の素人消費者の推奨広告です。

 

「かたいよ、もう少し力抜いて自然にお願いします」という監督のディレクションに、素人さんが演技し始めてしまい、余計に変な仕上がりになってしまう。そういうの多いんです、ほんとに。「シロウトさんが自分を意識して芝居しだしたら、クサくて見ていられませんからね。それがわかっているので、緊張して、もう台詞言うのが精一杯という間に撮ってしまう。」(堀井)。。。実にしたたかな天才の技です。

 

で、です。大阪の誰もが知るようになったこの関西電気保安協会のTVCMはきっちりとブランディングをしているんですね。堀井さんが聞いたら「そんなたいそうなこと思って作ってへんわ」*3と言うかもしれませんが。

 

 簡単に言うと「そのブランドを思うとどんな気持ちになる?」を設計するのがブランディングです。関西保安協会のCMは検査員への警戒心を解くという大命題があったはずです。そりゃふつう警戒しますよ。知らない人がピンポン鳴らして、「検査に伺いました」と言ったら。

それをこの「いかにも悪い人には見えない、むしろ人の良いおっさん」ヅラした検査員さんたちを次から次へと見せられたら、どうです? 追い返したりしたら、後味悪いですよ。追い返せます?😁

 

実際に検査員さんが家に来ると、あの「かんさい でんき ほ〜あん きょうかい」という間の抜けたようなジングルが頭の中で思い出されて「悪いおっさんじゃないだろう」と少し安堵するんじゃないかと思います。

 

つまりこのCMで創られたのが「安心できる」というEmotional Benefit、つまりブランド価値なんだと思います。「まかせて安心」なんてひとことも言ってませんよ。言っちゃダメなんでうす。感じてもらう。人は理屈では動かない、感情で動くというのがブランディングの一丁目一番地ですから。

 

見ていただいたCMはもう40年も前のリジェンドCMです。

最近のCMはこれ。

 

 

youtu.be

 

検査員が若い人になってますよね。

最近の検査員はおっさんじゃなくて、若い人が多いんじゃないでしょうか。

関西電気保安協会さんから「若い人でも安心でっせ」ってのを作ってくれへん?

というオリエンがあったんじゃないでしょうか。知らんけど(😀)*4

 

 

 

 

 

*1:こんな表現は大阪的にアウトですかね?

*2:わたし東京人なんで、この大阪弁は間違ってると思われます。😁

*3:大阪弁要添削😁

*4:大阪弁で多用される「知らんけど」、締めに放り込んでくるこの言葉の使い方が東京人の私にはいまいち分からない。「僕と付き合ってください。結婚するかどうかは知らんけど。」という使い方なのかな?😀 知らんけど。

其の28 聴覚的なブランド・ソーマ〜RIZAPの場合

先週は聴覚的なブランド・ソーマの代表例としてBraunシェーバーのモーニング・レポートCMシリーズを上げました。レポーターが実際に取材した通行人ビジネスマンの髭の剃り残しを、ヘッド部を取り白い板の上に「トントン」とやって落す・・・というプロットです。

「他社製品では剃り残した髭もブラウン・シェーバーはよく剃れるので根こそぎ処理できるんです。」というのが訴求ポイントの実によく出来た実証型コマーシャルです。後によく言われるようになるU.S.P.訴求です。Unique Selling Propositionというやつです。敢えて訳すと独自の差別化ポイント・提案。加えて、こんなことを言う人はいないかもれませんが、あの「トントン」音が実は強力なブランド想起を惹起するブランド・ソーマになっていると書きました。

聴覚ブランド・ソーマとして、あのネスカフェゴールドブレンドの「ダバダ〜」スキャットに並ぶ強いものではないでしょうか?

とは言え、この二つのシリーズは余りに古い話なので、今回は直近で私がこれはと思ったブランド・ソーマの話をしたいと思います。

ご存知のライザップです。RIZAPと書かないと怒られるかな。😁

RIZAPと聞いた瞬間に、あの
「ブー、ブッ。ブー、ブッ」
「チャラーンラ、ラランラ、チャラーンラ、ラランラ」*1というBGMが頭の中に鳴り響きませんか?😁

この5、6年間、私の好きな元ボクサーの俳優である赤井英和をはじめ、浅香唯天野ひろゆきエドはるみ、森永卓郎・・・枚挙にいとまがないくらいに次々と芸能人たちがCMに登場しました。実際に2ヶ月にわたるRIZAPのトレーニングとダイエットメニューに取り組んだ結果ですから、実に説得力のある、いわゆる実証型C Mの典型ですよね。

では赤井さん編を。

https://youtu.be/edCYKPR_JC8



あのCM、贅肉がついてゆるんだカラダと、RIZAPトレーニング&ダイエット後に仕上がったシェイプアップされたカラダの、ビフォア&アフターをあの特徴的なBGMで見せているだけの実にシンプルな構造なんですね。しかもメッセージは「結果にコミットする」だけ。良くみると「2ヶ月でこのカラダ」「30日間全額返金保証」ともテロップが出てるけど覚えてるのは「結果にコミットする」だけ。😁

実にわかりやすい。トレーニングやダイエットのビフォー&アフターを見せるというのは定番なんですが、ここまでフォーマット化し、余計なことは一切言わず、映像インパクトで通すというのがお見事です。モデルは芸能人だけではなく、素人さんも多く起用されていて、まぁ良く皆この厳しいと言われる短期集中トレーニングとダイエットを耐えたもんだと感心します。



ただ単にマッチョになろうということなんかじゃなくて、このRIZAPトレーニングにはブランド価値、Emotional Benefitがちゃんとあると、わたしは見立てています。

 それは「若き日の自分の姿を取り戻す」です。多くの日々を過ごして人生経験を積み重ねたのは良いけれど、余分な脂肪もつけてしまった自分・・・シャープだった若き日の自分を取り戻す・・・とてもaspirationalなEmotional Benfitです。好感します。

 そしてそのブランドに対する好感を引き出すきっかけとなるブランド・ソーマ*2

が例の特徴的なBGM、ジングルと言ったほうが正確かな、そのものなんです。

  
 コクリコ遠藤章造さん編は、まさにこの「若き日の自分の姿を取り戻す」Emotional Benefit訴求の典型です。私はこれはRIZAP CMシリーズの金字塔と思っています。

https://youtu.be/No6NePhxPro



若き日の自分を取り戻す・・・
若い頃は皆、贅肉もなく、動きもシャープだった。
それが今やすっかり疲れてだらしのない体型に…なんとかしたい...これって殆どの中年の人に当てはまる潜在的願望じゃないでしょうか。

鍛え上げてマッチョ、筋肉マン・ウーマンというのではなくて、以前のわたしにちょいと筋肉も、
みたいな。

RIZAPのコースは決して安くはありません。週二回のトレーニングと糖質コントロール・ダイエットの個別指導プログラムの提供で、基本コースが34万8,000円とHome Pageにあります。

それでも「シャープだった昔の自分を取り戻す」というEmotional Benefit、つまりブランド価値は強いんですね。年収の高い層であればあるほど、仕事に時間を取られて、ステイタスと同時に贅肉も身に付けているのではないでしょうか?😁 34万8千円掛かっても、why not? なのでしょう。

コミットって、本来は責任を持って約束するという意味で英語的にはとても強い言葉です。コミット、コミットメント...日産のカルロス・ゴーン元会長が使って有名になっった言葉ですね*3
「結果にコミットする」というのは大変強いメッセージです。つまり失敗する可能性も高いダイエットプログラムが多い中、必ず結果を出しますよと言い切っているわけです。

Rizapが「結果にコミットする」と言い切っていることは、減量シェイプアップに失敗した人、リバウンドした人は自分が厳しいトレーニングにコミットできなかったのね、という自己責任感を示唆しています。これもなかなか秀逸なメッセージの作り方です。そこまでRizap側が意識しているかどうかは分かりませんが。

ところで、減量シェイプアップ・トレーニングのライン・エクステンション*4で、RizapはRizap GolfとRizap Englishを出しました。


https://youtu.be/mHzQZm33Pkg

https://youtu.be/tNF7YATnxoM

両方とも、先述したRizap減量シェイプアップ・トレーニングで訴求している「若い頃の自分を取り戻す」というようなEmotional Benefitはありません。

ゴルフは「80台を出していた昔の自分を取り戻す」ではありませんし、英会話は「昔英語がベラベラだった自分を取り戻す」わけじゃありません。😁


出来ないところからがスタートで、これって言ってみれば普通です。もちろん、ゴルフは例えば100を切るとか、英語ならばTOEICを200点以上アップする*5というようなプロミス的なメッセージはあります。

ホームページを見ると、Rizapゴルフもイングリッシュも基本コース2ヶ月で50万近くはするので、余裕のある方でないと無理ですね。Emotional Benefit、つまりブランド価値がないと、本体のRizap 減量トレーニングのような成功には覚束ないと思うんですけど、どうなんでしょうか。推移をウォッチしたいと思います。

*1:あくまでも私の脳中の音です。こう聞こえるんです。皆さんはどう聞こえてますか?

*2:グローバル・マーケティング調査会社 Milward BrownのErik dku Plessis会長が名付けた、顧客の脳の意識下に刻み込まれるブランドに対する好意的、また否定的な印象の刻印

*3:本人が問題起こして逃亡までして、すっかりアンコミットな人に落ちぶれてしまいましたが。言葉は生き残りましたね。

*4:既に確立した製品サービスに、同じ製品サービス名の傘の下で違う形態・機能のものを追加すること。製品ラインの拡張。

*5:TOEICは会話力は殆ど関係なく、読み書きヒアリングがメインのテストです。

其の27 「トントン」というブランドソーマ

 

ライオンのエメロン・シャンプー&リンスの「見返り美人」ソーマについて前回は書きました。このソーマは半世紀近い時を経て、TikTokの「こっちを見ろ、こっちを見て」ポージングに再出現しています。これは視覚ソーマですが、今回は音楽やサウンドロゴ、つまり聴覚的なものがブランド・ソーマになるというお話です。

 

其の20で日本のロングラン・ブランドTVCMの代表的なものの一つとして、ネスレ日本ネスカフェゴールドブレンド「違いのわかる男」シリーズを取り上げました。あの「ダバダ〜」という女性のスキャットが香り豊かなコーヒータイムを連想させて、抜群の効果を発揮するんですね。店頭で棚に並ぶゴールドブレンドをみると、顧客の頭の中では無意識にあの「ダバダ〜」が鳴り響くのでしょう。☺️ グローバル調査マーケティング会社Milward Brownの会長のエリック・デュ・プレシス氏は、無意識にブランドを好意的感情を持って連想する、脳意識下に刻まれたこの「跡」を、「ブランド・ソーマ」と名付けました。ソーマ(soma)というのはmentalの反義語、つまり肉体的なという意味です。顧客の脳という肉体に、企業はブランド・ソーマという跡を残すべく全力を尽くすべき、マーケターの仕事はこれに尽きる。とプレシスさんは断じています。

 

人間が知覚記憶する脳メカニズム的には視覚情報が一番記憶に残り、次いで聴覚情報だそうです。言語情報は一番低いんですね。政治家がどれほど長広舌しても、誰も覚えてないってことです。😀 一方で安倍さんが小さい布マスクをした光景は、強烈に皆の記憶に残ったのではないでしょうか。

さてお話は聴覚的ブランド・ソーマについてです。

其の7で、ブランディングCMの名シリーズだったと、Brownシェーバーについて書きました。素人の方をつかまえて話を聞くという意味では、ライオンのエメロン・ブランドの「振り返り美人」方式と同じです。知らない若い人の方が多いでしょうから、簡単にCMのプロットをご説明しますね。

 

通勤で急ぎ足のビジネスマンを駅前で、レポーターが声がけをして、ブラウン・シェーバーを使ってみるようお願いします。「朝ちゃんと剃りましたよ」と訝るビジネスマンが試しに剃ってみると・・・レポーターがヘッド部を取りプラスティックの白い板の上にトントンとしてみると、なんと髭の剃り残しが結構あるのでした・・・というプロットです。このプロットを各地で繰り返していくわけです。

 

「他社製品では剃り残した髭もブラウン・シェーバーはよく剃れるので

根こそぎ処理できるんです。」というのが訴求ポイントの実によく

出来た実証型コマーシャルです。

 

後によく言われるようになるU.S.P.訴求です。Unique Selling Propositionというやつです。

敢えて訳すと独自の差別化ポイント・提案になるかと思います。

 

ちなみに其のコマーシャルがこれ。

 

https://youtu.be/Rn5xBnyZmUg

 

以前書いた内容に被りますが、もう一度おさらいします。

 

このTVCMシリーズは1981年から2003年まで20年を超える期間、同じプロットで

作られ放映された珠玉のロングセラーCMです。実は私もこのコマーシャルを見た頃に会社に入ったばかりで「社会人なんだからちゃんと髭は剃らないとな」と思ってしまい😁、ちょっとお高いブラウン・ シェーバーを買った一人です。

 

ブラウン・ジャパンのマネージャーや制作した広告代理店がどう考えていたかは今や知る由もありませんが、このCMは秀逸なU.S.P. 訴求をしていただけではなく、ちゃんとブランディングをしていたと確信します。

 

表面上は「(他と違って) 剃り残しが無い」というのが訴求ポイントですが、ここに込められたイメージは忙しい日本のビジネスマンがビシッと決める「朝のKick-Starter」だったのだと思います。

 

この「モーニング・レポートのCMが始まった1981年、昭和56年はバブル崩壊の10年ちょい前、破綻に向けてどんどん昇り詰めていくdecade、同年にはフジテレビで「オレたちひょうきん族*1が始まり、新潮社から写真週刊誌FOCUS*2が創刊されました。1989年には某社のスタミナドリンクがCMで「24時間戦えますか?」と煽っていた10年期。

 

イケイケどんどん (昭和語ですかね、これ) の時代、ブラウン・シェーバーは

朝からビシッと決めて「戦地」に向かうビジネスマンへの応援歌だったのだと

思います。剃り残しがあっちゃ締まりません。☺️ ブランディングのコアは

Emotional Benefit 、つまり情緒的便益にあります。ブラウン・ シェーバーの

それは「戦場のようなオフィスに向かう自分の背中を押してくれるKick-Starter」

だったのだと思います。

 

 

ではKick-Starterというブラウン・シェーバーのEmotional Benefitを記憶から表面化させる合図となるブランド・ソーマはなんだったのでしょうか? なんだと思いますか?

 

レポーターがBraun シェーバーのヘッドを取って白いプラスチック板に剃り残しの髭カスをトントンと落とすときの、あの「トントン」音だと私は確信します。「違いのわかる男」の「ダバダ〜」スキャットにあたるものです。BraunシェーバーのCMを何度となく見たユーザーの私は「トントン」で、シャキッとして会社に行くぞ!モードに切り替わっていたんです。試しに私の耳の横であのトントンをやってみてください。きっとキリッとした顔になるでしょう。😀

 

先週のエメロン、今週のBraunシェーバーも例が古すぎたので、次回は直近の聴覚ブランド・ソーマについてお話したいと思います。皆さんよくご存知のあのCMです。

 

 

 

 

*1:1981年〜1989年 フジテレビ系列で放送されていたお笑いバラエティ番組

*2:1981年創刊〜2001年休刊の写真週刊誌の草分け

其の26 見返り美人というブランド・ソーマ

  ロングセラー商品のブランディング、という視点でネスレ日本ネスカフェゴールドブレンドの「違いのわかる男」シリーズとキンチョー(株式会社大日本除虫菊)の半世紀以上続いている面白CMシリーズを其の20と其の23の回で取り上げました。

  今回と次回は個人的に今でも心に残る別のロングランのブランディングTVCMシリーズをふたつご紹介したいと思います。

  ひとつは1965年から40年間の長きにわたり生産販売されたライオンのヘアケア商品、エメロン。シャンプーとリンスが主力のブランドです。

  大々的にTVCM広告がスタートしたのは1970年からで、このCMのフォーマットが当時斬新だった。

  街角で歩いている髪が綺麗な素人女性の後ろ姿をカメラが追い、インタビュアーが後ろから「すみません」と声をかけて、最後に振り向かせる、というフォーマットで全国各地をロケしました。今でこそ全国ご当地巡りというのはTVバラエティの定番フォーマットですが、当時はまだ珍しくて新鮮でした。

  「仙台の人」「鹿児島の人」「静岡の人」・・・とシリーズは続くわけです。ターゲット・ユーザーは女性なのに、若い男子の私はこのCMの新作を楽しみにしていました。☺️

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  心理学で「ツァイガルニック効果」というのがあって、事象が中途半端で終わると記憶に残りやすくなる、続きが気になる、というものです。

  これを利用したいわゆる「焦らし」の心理学。人は続きが気になるという心理を逆手にとったもの。よく使われるマーケティング の一手です。

  テレビドラマが良いところでCMが入り一旦途切れ、CM後に再び続くというやつはこれです。視聴者は続きが気になるからチャンネルは変えない。CMを観てるかどうかは別として。😁

  エメロンのCMはまさにツァイガルニック効果を使った名作です。最後に振り向くまで気になって仕方がない。まぁ男子の私はターゲット外ですが、「男性が気になる」美髪効果のある製品という強烈なインプリケーションが埋め込まれています。

  ハニーナイツというグループの唄うCMソングとなった曲は皮肉にも「ふりむかないで」。なかなかの演出です。

  このエメロン・シリーズを思い出したのは近年TikTokを見ていてなんです。TikTokには色んなパターンのお決まりのポージングがあるけど、その中のひとつで「こっちを見ろ、こっちを見て」というパターンがあるんですね。これなんですが。


youtu.be



考えてみると、これは江戸時代からある「見返り美人」の鉄板の方程式ですよね。



  エメロンのCMにはブランディングの妙があると思うんですね。

  このインタビューの声がけに振り返ってくれた女性は、エメロンシャンプーの使用者ではありません。

  髪が長くて綺麗な女性に声をかけているのですが、理屈からいえば、エメロンシャンプー&リンスのおかげで髪が綺麗になっているわけじゃない。

  でもブランディングの鉄板の法則は、「ひとは理屈でモノを買わない。感情で買う。」であります。後ろを歩くひとを惹きつける綺麗な髪の毛とエメロンの名前の二つが好意的に心に刻まれれば、それでミッションコンプリートなんです。

  で、このエメロンのCMにおいてのブランド・ソーマは何であったか? 

  ブランド・ソーマ*1というのは、購買時点で人の行動を誘発する意識下に刻まれた、ブランドに対する好印象(または悪印象)の刻印のことです。


  エメロンのブランド・ソーマはこの「見返り美人」というCMフォーマット自体だと思います。これは強烈でした。街を歩いていて髪の長い女性の後ろ姿をみると、このCM思い出しましたから。ホントです。振り向かないかなぁ、とか思って。当時男子学生だった私はターゲットじゃありませんでしたけど。😀

  ブランド・ソーマってホント強力なブランディングの手段だと思います。意識下に打ち込むわけですから。それで購買時に記憶の底から蘇る。なんか催眠術の誘導みたいですね。効きますよね。ボクシングで言うと井上尚弥選手のボディブロー。😁

  其の(23)の回で書きましたが、50年以上も前から現在も続いているキンチョーのTVCMの場合も、あの面白コマーシャルのあり様自体がブランドソーマです。面白さへの執念は半端じゃありません。そして大概の企業が心血を注いで訴求する商品特性を自ら「つまらん」と言ってしまう脅威的「したたかさ」。あ、面白ければいいというつもりか!と怒らないで下さい。

  キンチョーの場合は、不殺生という仏教戒を冒すことになる「殺虫」に対する「贖罪」をあの面白CMが担っているんです。私見ですよ、これ。つくっている電通関西の制作チームが聞いたら「つまらん。おまえの話はつまらん!」と言うでしょう。99%。1%は無視ですね。殺虫。



  二つ紹介したい、って冒頭に言いました。あとひとつ。なんでしたっけ?
冗談です😅
 続きは次回…*2

*1:市場調査・マーケティング会社Milward Brownの会長Erik du Plessisが提唱した考え

*2:続きが気になったら、これがツァガルニック効果です。ならなかったら・・・失敗ですね。😁

其の25 すしざんまいのマグロの初競はブランド・パブリシティのお手本である

 大きな広告予算を持つ大企業とは違う中小企業は、パブリシティを積極的に行うことが

ブランディングに必要であると、ライズ親子はその著書The 22 Immutable Laws of Branding

で説きました。この点は私も同意します。ただし、パブリシティを企業がコントロールできるのは仕込みを行うまでであり、出目、つまり露出量や扱われ方まではコントロールできないことを理解しておく必要があります。一度手を離れたらパブリシティは自走するということなんです。思い通りには事は運ばない。😀

 

だからこそ、入念にパブリシティにのせるネタを設計吟味する必要があります。

 

前回そのパブリシティ・ネタを仕込む際の4原則について書きました。

すなわち、

1) メディアが取り上げたくなる

2) ブランディングの方向性に合致した

3) 掲載時の出目(出稿量、扱われ方)を計算した

4) 事実としてのプロモーション活動を設計し、実施する

 

・・・の4点です。

 

事例として岡山県倉敷中央病院が外科研修医の選考試験で実施したユニークな

適正判断試験(トライアウト)を取り上げました。特筆したいのは、このトライアウトに

メディアが好んで取り上げたくなるユニークなビジュアルがあったことです。

 

外科医の大事な適正に手先の器用さがあるのは言うまでもありませんが、ピンセットと

メス、瞬間接着剤を駆使して5ミリの極小折り鶴や、米粒大の寿司セットを作り、

バラバラになった昆虫を元の姿に戻すという3種のテストをトライアウトにした

というメディアの触手が動くような設定をした事がポイントです。

 

倉敷中央病院は地域が限定された例でしたが、今回は全国レベルで、しかも毎年同時期に

仕込まれているパブリシティの好事例について書きたいと思います。

 

その企業は(株)喜代村です。わからないですよね。寿司チェーンのすしざんまいを関東を中心に全国51店舗*1展開している会社です。

 

チェーン寿司店の店舗数のベスト3って知ってますか?

私は知りません。😁

ググったところ、

一位はスシロー 540店

二位ははま寿司 512店

三位はくら寿司 451店

日々増減して変わっているはずですが、2020年の1月末時点の店舗数です。

 

上位三位の店舗数に比べると、すいざんまいは51店舗で九位、かなり小規模ですね。

 

でも、丸顔で人の良さそうな木村清 社長が毎年、築地市場でのマグロの初競りに参加して高価なマグロを落札するニュースをテレビでご覧になった方は多いんじゃないでしょうか。店舗数上位3社に見劣りしない印象の強さがありませんか?

 

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2017年の築地市場マグロの初競り YouTubeより

 

これこそTVメディアを通じてのパブリシティの効果です。

 

実は何年か前に、この木村清 社長自らが出陣する初競り落札の費用対効果を個人的に試算してみた事があるんです。某方にブランドのTVパブリシティ効果を説明する資料としてつくりました。私算の試算ですが、そんなに大きく外れてはいないと思います。

 

ちなみにこの年、2017年のマグロの初競りの最高落札価格は7,420万円でした。

テレビ・ニュースには必ず取り上げる時節ネタというのがあります。お正月の初詣から始まって、成人式、卒業入学、梅雨、お盆帰省ラッシュ、夏の花火大会・・・。

 

この築地市場でのマグロ初競りの高価競り落としは、いつの間にか時節ネタになりました。

しかもこのネタは、あの木村社長の丸顔とほぼセットで記憶されています。大変なブランディング効果です。いつだったか、木村社長より高値で競り落とした会社がありましたが、その時の報道は確か「木村社長、二番目の高値で競り落とし」でした。主語が木村清社長になってる。☺️

 

さて、ここからが本論です。

この我々庶民が、パンピーが、WOW!となる高値の一尾7,420万円。普通なら「頭おかしいんじゃないんですか?」と言いたくなるような金額ですが、これ、元は取れてるんです。いや、元は取れてるどころじゃなく、ただで広告してるようなもんなんです。ホントに。

 

私算したのはこの2017年の初競りです。

一番大きく取り上げたのは初競りのあった1月5日のテレビ朝日系列のモーニング・バラエティーショーの「羽鳥慎一モーニングショー」です。最高の本間のマグロを競りおとすために心血を注ぐ、すしざんまい木村社長の競りにのぞむ舞台裏を描くという文脈で、カメラを入れての20分近くを費やす特集を組みました。

 

これの20分をTVスポット広告料金に換算してみました。

パブリシティは書かれ方、報道のされ方によってポジティブ、

かネガティブかの評価をする必要があります。

当該番組での20分間は全編好意的な扱われ方でしたので、

ポジ率100%としました。

 

15秒TVスポット広告の全国コストを20万円とします。

(全国をカバーして、1%の視聴率を取る際のコストです。10%の視聴率を取っているテレビドラマで15秒CMを一本打つなら、200万円ということになります。)

 

羽鳥慎一モーニングショーの平均視聴率を7%として、

7%  X 15秒スポット単価 20万円 = 140万円

20分は15秒X80本分なので、

140 X 80 = 11,200万円。 

 

この番組一本だけで、広告費換算1億1,200万円です。

既にマグロ落札代の7,200万円は元は取れた計算になります。

 

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某方に説明する際に私が作成したスライドです



さらに加味すべき点は、広告より番組で報道されていることを人ははるかに信用するという

ことです。なので、効果は広告費換算より上回るはずです。はるかに。

 

同日のテレビ朝日のニュース枠で、このネタは何度も取り上げられていたので、出目の総計は

かなりのものになったと推察します。更にテレ朝の枠だけにとどまらず、WEBニューズ、YouTubeなどでも格好のネタとして取り上げられています

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単に毎年恒例のパブネタの提供というレベルではなく、喜代村(すしざんまいの会社ですよ😁)はこのマグロ高価競り落としを、年初キャンペーンの核に置くマーケティング計画を綿密に立てています。間違いない。(😀。昔そんなことを言う一発芸人がいましたね。)

 

競り落としと同タイミングで、ホームページには店舗でマグロ祭りを開催するプロモーションが展開されています。そして、競り落とされた7,420万の大間の「神マグロ」の身は実店舗に数量限定で実際に供されるわけです。このマグロを口にした幸せな親子の映像が、また後日テレビニュースで流されるわけです。

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すしざんまいは、別にマグロ寿司だけを売っているわけではありません。

ただ、この「マグロの競り落としに心血注ぐ木村社長」が、「コスト度外視でも魚の質には妥協しない」すしざんまいという好意的なブランドイメージを顧客の脳内に作っているはずです。「マグロ高価競り落とし+木村社長の人の良さそうな丸顔」がすしざんまいの強いブランド・ソーマ*2になっているんですね

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これはホント良く仕組まれたブランド・パブリシティです。

木村清社長に私製の賞状を上げたい。いらないか・・・☺️

 

来年の豊洲市場でのマグロの初競りはどんな様子になるのでしょうか?

Covid19感染予防で、仲買人はフェイスガードをした上で、ソーシャル・ディスタンスを保って 競りに参加するんでしょうね。木村清社長も。メディアの扱いも「今年の初競りは、仲買人はフェイスガードで・・・云々」と新ネタ追加で盛り上げるんでしょう。

すしざんまいホームページのマグロ祭りの親子ショットは、フェイスガードをしないといけませんね。😁

 

なんか今晩はマグロが食べたくなってきました・・・

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

*1:2020年1月末時点の調べなので、現時点で増減はあるかと思います。

*2:グローバル調査マーケティング会社Milward BrownのErik du Plessis 会長が名付けた、顧客の脳の意識下に刻み込まれるブランドに対する好意的、または否定的な印象の刻印

其の24 Branding の為のパブリシティ 

  日本パブリック・リレーションズ協会はPR (Public Relations) を以下のように

説明しています。

 

組織とその組織を取り巻く人間(個人・集団)との望ましい関係を創り出すための考え方および行動のあり方である。19世紀末から20世紀にかけてアメリカで発展し、日本には第二次世界大戦後の1946年以降にアメリカから導入された。

企業・官公庁・団体他、あらゆる組織の運営に欠くことのできない考え方といえる。

 

協会の説明の続き。

パブリック・リレーションズについて、アメリカで教科書として定評がある「体系パブリック・リレーションズ」では、次のように定義されている。

パブリック・リレーションズとは、組織体とその存続を左右するパブリックとの間に、相互に利益をもたらす関係性を構築し、維持するマネジメント機能である。

 

  サンドウィッチマンじゃないけど…ちょっと何言ってるかわかんない。☺️

 

KISS*1の原則、起動!

 

  つまり、会社や団体組織が皆んなに良く理解して貰おうってことで色々やる事…ってことですかね。簡単に言うと。

 

 マーケターがよくPR、PRっていうのは、これとは別に製品・サービスのパブリシティのことでしょう。新製品やイベントのプレスへの発表資料配布や、宣材配布、宣伝起用タレントのインタビュー手配、記者発表...etc、担当マーケティング部員のパブリシティ作業の裾野は広く、新製品が重なったりすると、寝る暇も無くなるほどでしょう。パブリシティ鬱ってのもありそうです。

 

  其の21でご紹介しましたが、アメリカの著名なブランド戦略家親子のアル・ライズさんと、娘ローラ・ライズさんの書いた Immutable Laws of Branding(ブランディング22の法則)*2でパブリシティの効果について以下のように書いています。

 

マクドナルドやコカコーラのような大型ブランドを維持するには、多額の広告予算が必要であるかもしれないが、一般に広告が新しいブランドを離陸させることはない。

 

アニタロディック*3は広告をまったく使わないでザ・ボディショップを巨大ブランドに築き上げた。彼女は代わりにパブリシティの機会を求めて精力的に世界を旅し、環境に関する自分のアイディアを売り込んだ。

 

スターバックスも広告には大金を使っていない。同社が10年間の広告費用は1千万ドル*4足らずであり、年間売上が10億ドル*5近いブランドにすれば取るに足りない金額である。”

 

  まぁ広告が最初ブランディングに寄与する事はほとんどない、という親子の論には私は異論がありますが、それはさておき、起業間もない会社が十分な広告費を確保できないというのは明白でしょう。パブリシティに注力するしか手はないわけです。

 

その際にしなければならないことがあります。

1) メディアが取り上げたくなる

2) ブランディングの方向性に合致した

3) 掲載時の出目 (出稿量、扱われ方) を計算した

4) 事実としてのプロモーション活動を設計、実施

 

  4) に書いたように、嘘であってはなりません。盛ってもいけません。トランプ大統領じゃありませんが、it's fake newsになって、信用性を一夜にして失ってしまいます。一度失った信用を取り返すのは至難の技です。

 

  最近の人は、InstagramなどのSNSで日常的に「映えるように盛ること」をしてますから、企業の「盛る」行為には敏感です。

 

次回に渡っていくつか好例を上げたいと思います。

 

 

  まずは数年前に岡山県倉敷中央病院が外科研修医選考試験で実施した適正判断試験です。

高い評判の総合病院ですが、外科医の実績や評価も優れているこの病院のレピュテーション向上に繋がったパブリシティと確信します。

 

まずは、どんな活動だったか、YouTubeから。

youtu.be

 

 

 

如何でしたか?

 

  ビデオはプロの手で編集されていますが、このトライアウト(適正判断試験) は事実ですし、トライアウトを経験した研修生数人がインタビューに答えていますからCredibilityが高いですね。

 

  なにより、トライアウトの試験内容がユニークです。

  3つの試験が用意されています

1) 5ミリの極小折り鶴をピンセットで折る 

2) バラバラにされた昆虫をピンセットと瞬間接着剤で元の形に戻す

3) コメ粒大の寿司セットをメスとピンセットで作る

 

制限時間はそれぞれ全て15分です。

 

  物理的な手術を行うことが「商売」☺️の外科医には手先の器用さが必須なのは周知のことです。

 

  不器用な外科医って聞いたことないですよね? いたとしても淘汰されちゃいますよね。

残っていたらそれこそ問題です。ブラックジャックじゃありませんが、「神の手外科医」が

メディアで多く取り上げられている今です。手術には準神の手でもいいからお願いしたい。

 

  そんな現代、この気の遠くなるような手先の器用さが求められるトライアウトを経て

やっと研修医になる、この倉敷中央病院の外科医の技術はかなり高いに違いない・・・と

連想しません?

 

  倉敷中央病院外科のレピュテーションをより向上させることに、このパブリシティは寄与したはずです。病院は地域性の高いものなので、拡散露出は全国レベルではなかったでしょうが、上述の4つの効果的なパブリシティ必要事項を満たしています。

 

  特に大事なことは、メディアが取り上げたくなるビジュアルであることです。外科医の技術力を専門用語を駆使して、枚挙にいとまがないくらいに書類にまとめても、これっぽっちもアタマに入ってきませんが、たった一本のVTRを見ただけで、腹落ちします。

 

  コメ粒大の寿司をメスとピンセットで作った器用さ、WOW! って思いません? これって、メディアの食指を動かす最大のポイントです。ビジュアル。すぐわかる。Lateral Thinking!  

続きは次回に。同じやり口で、同じ時期に、全国的なパブリシティを毎年行なって成果を

上げている会社の好例について書きたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:Keep It Short and Simple, またはKeep It Simple, Stupid!の略。1960年代の米国海軍で使われていたスローガンの由。

*2:東急エージェンシー刊 1999年第一刷

*3:Anita Lucia Roddick 1942-2007. イギリスの女性実業家。1976年にボディショップを創業。イギリス サセックス州リトルハンプトンに一号店を出店。

*4:為替レート1ドル=107円で10億7千万円

*5:同上レートで1070億円。この本が書かれたのは1998年。2019年の売上は約265億米ドル=2兆8,355億円

其の23 キンチョールのブランディングについての考察(大袈裟かっ!)

  ネスレ日本ネスカフェゴールドブレンド「違いのわかる男」シリーズに

並び、日本で稀有なロングラン・ブランド広告にはKINCHO*1があると前回書きました。あの面白ければなんでもあり的なキンチョーのCMをブランド広告と言うとは何事かと異論反論の方が沢山いるかと思います。

 

  もちろんこれは私の私論です。どこでもそんな説は見聞きした事はありません。ヒットCMと言われることはあってもブランド広告とは言われてないですよ、100パーセント。😅

 

  バカ言ってんじゃないよ!と怒られるかもしれませんが、よければ我慢して聞いてください。結論めいた事は最後に書きますので、それまで耐えてください。😀 ダメならここで閉じていただいた方がいいです。m(_ _)m

 

  シニアの方はもちろんご存知でしょうが、若い方だとキンチョーがどれほど面白ければなんでもあり的な広告を長年作ってきたかご存知ないでしょう。あらためてご紹介したいと思います。YouTube引用するので、ちょっと長くなるかも。

 

  殺虫剤のキンチョー、最近のTVCMで言うと、

笹野高史がCG合成相撲取りを演ずる「蚊がいなくなるスプレー」

香川照之がおかっぱ頭の少年に扮してプイ〜んと言いながら走り回る「キンチョール

長澤まさみの投げやり感マックスな関西弁「虫コナーズ

滝藤賢一が女装しての「ティンクル」

これらはオンエア中なので、YouTube引用しません。

 

「もう少し真面目にせなあかんちゃうの?」*2と心配になるくらい面白-drivenなCMですよね。

これは、半世紀を超えるキンチョーCMのDNAなんですね。

 

  DNAの端緒は1966年。クレイジーキャッツ桜井センリさんの出演したキンチョールのCM。

商品のキンチョールを逆さまに持って「キンチョール、逆さにしたらルーチョンキ」とやった。これ桜井さんのアドリブで押さえだったのが結果的に採用されたそうです。採用したキンチョーも凄い。昔過ぎるのか、YouTube にありませんでした。

 

  1980年の郷ひろみを起用して以来、不謹慎なくらいに破茶滅茶な路線のCMには枚挙にいとまがありません。

 

郷ひろみ「ハエハエカカカ、キンチョール」(1981)

youtu.be

 郷ひろみの横にいる歯医者は若き日の柄本明です。

「よろしいんじゃないんでしょうか」は当時流行言葉になりました。

 

阪神タイガース掛布雅之選手(当時)の金鳥蚊取りマット(1982)

youtu.be

 

木野花もたいまさこ タンスにゴン(1986)

「亭主元気で留守がいい」はこの年の流行語大賞になりました。

youtu.be

 

ちあきなおみ美川憲一 タンスにゴン(1990)

youtu.be

 

  枚挙にいとまがない、と書きましたが、本当にキリがないのでこの辺にしときます。 

 

  そんな中で私が一番面白かったと思うシリーズが沢口靖子さんが出演したシリーズです。

美人女優の沢口靖子さん。よくぞ彼女をここまでいじり倒したと感心します。

大阪出身のDNAを持つ沢口さんならではの名演技、迷演技ぶりです。

youtu.be

 

 

大滝秀治岸部一徳 水性キンチョール(2003)

youtu.be

 

  次いで、傑作と思うのが故大滝秀治さんと岸部一徳さんが親子役を演じているCMです。

商品は水性キンチョール 。息子が水性は環境に優しい・・・と製品特長を説明し出すと、「お前の話はつまらん」とかぶせてくる父。

 

  しかし「水性だから環境にいい」と言うキーポイントだけは何故か頭に残ります。どうでもいい、つまらない事、と言われるとかえって気になる人間の心理をついてます。これを提案するクリエイターも凄いけど、採用するスポンサーはもっと凄い。*3

 

 

 

  さて、1980年の郷ひろみ起用以来、キンチョーのCMを制作してきたのは電通関西のクリエイティブ部署にあった通称「堀井チーム」です。偉才、堀井博次を筆頭に、田井中邦彦、石井達矢の三氏を中心に結成していた、いわば面白CMの梁山泊です。

 

  徹底的に目線を低くして、庶民の気持ちを掴むアプローチ。それは等身大というより、もはや等身大以下。😁 でも、面白さの表皮の下に実は本当に刺し込みたいメッセージが隠れています。

 

  大阪の人しか知らない、大阪の人なら誰でも知っている関西電気保安協会のCMシリーズは堀井チームの仕事です。

 

  DNAはチーム若手に引き継がれて、石井氏、田井中氏のクリエイター・オブ・ザ・イヤー受賞(1991、1994) の後にも中治信博(1999)、山崎隆明(2002)の両氏が受賞しています。広告賞を取りまくったのちに電通を辞めて、近畿大学教授に転身した山本良二氏も堀井チームの若手でした。全員もう若手じゃありませんが。😁 

 

  さて、本題です。いつも本題に入るのがコラム終盤になってますね・・・すみません、自分の筆性*4なんで。

 

  面白ければなんでもありのCMと冒頭に書きましたが、実はキンチョーの広告には通奏低音的なお約束があります。(私の見るところです、あくまでも😁)

 

  大日本除虫菊株式会社の端緒となる製品の渦巻型蚊取り線香はともかく、我々のよく知る液体噴霧殺虫剤キンチョール、これって直に「殺虫」なわけです。

 

  仏教には不殺生の戒というのがあります。すべての生き物の命を奪ったり傷つけてはならない、という戒の由。一寸の虫にも五分の魂。

 

  1寸は3センチですから、まぁ蚊ははるかにこれより小さいですけど、生き物であることに変わりはないので、蚊とはいえ立派に殺生です。

 

  不殺生、この根っこには輪廻転生の考えがあるはずです。自分は生まれ変わって来世は蚊になるかもしれませんからね。ゴキブリの可能性も排除できない。

 

   一応仏教徒が多い日本人としては、殺虫も殺生という無意識の罪悪感があるのではないかと思うんですね。

 

  キンチョールはちゃんとした有効殺虫成分のあることが化学的に証明できる製品です。

 

  USPアプローチをとってその機能的便益、functional benefitを訴求するならいくらでもできるはずです。

    除虫菊に含まれる害虫駆除効果のある天然成分ピレトリンを元に、合成殺虫剤のピレスロイド類を多く研究開発した結果、キンチョーは様々な害虫に速効性のある・・・云々。

 

  このような機能的便益を聞いてもアタマに入っては来ませんし*5、むしろ殺虫=殺生感がどうしても心に刻まれ、後ろめたい気持ちに無意識になってしまうのではないでしょうか。

 

  以前、ブランディングの最高の打ち手は、人の大脳皮質の無意識下にPositiveな感情を刻むブランド・ソーマをつくることであるとするMilward Brown会長のErik du Plessisの主張をご紹介しました。

 

  ブランド・ソーマにはNegativeな感情も含まれます。ブランドを思った時、過去にPositiveな感情を覚えたことがあれば、自動的に「良い感じ」になる感情が表出し、Negativeだと「嫌な感じ」が表出する。その感情がブランド選択に決定的に作用する、とするPlessis氏の説に私は全面同意しています。

 

  先述のように、もし、キンチョールピレスロイドの殺虫効果を真正面から取り上げて、殺虫のfunctional benefitアプローチでCMをつくっていたら、どうでしょう? 嫌な感じしませんか? 

 

  もちろん蚊は、刺されたら痒いなんて症状はともかく、マラリア、テング熱、ジカウィルス感染症日本脳炎など致死的感染症を媒介する害虫でありますから、死んでいただかなければなりません。

 

  殺さなければならない、しかし殺生をすることになり「嫌な感じ」、この背反する感情を解決したのがキンチョールのお笑いCMです。

 

  蚊に死んでいただくことをコミカルに描いて、無意識下にある罪悪感をなくしているんです、この半世紀以上の長きにわたって作られてきているCMは。(きっぱり😀)

 

  無意識の贖罪意識を狙った意図的なお笑いです。これが不文律になっている通奏低音的「お約束」なのでしょう。

 

  キンチョーのブランド価値は、実は「贖罪意識を満たしてくれる」という事にあったんです。日本人の仏教マインドに共振を引き起こす、とても強いemotional benefitですね。

 

・・・と散々書き散らかしましたが、クリエイターの方々はそんな事これっぽっちも考えていないと思います。「そんな大層なこと思うんてへんわ。屁理屈こねくり回しやがってこのガキ、アホか!」*6「おまえの言う事はつまらん!」と言うクリエイターの顔が浮かびます。

 

 キンチョーの宣伝部の小林裕一氏もORICON NEWSのインタビューでこう語っています。

「もともとCMって、テレビを視聴する上では、正直いらないものじゃないですか。(笑)

そういうものを見てもらうには、面白さやインパクトで注意を喚起できないといけませんから。」

 

  うーむ。私が展開した「キンチョーのブランディングについての考察」は分が悪そうです。 何を小難しい事言うてんねん! と一蹴されそう。

 

  いや、ちょっとかっこつけて書いてみただけですわ。そんなんどうでもええんです・・・

もうええわ。   幕

 

 

*1:大日本除虫菊

*2:私、東京人なんでこの大阪弁あってるかどうかわかりません

*3:これ二回言いました😁。ここまで割り切れる企業って稀ですよ。

*4:こんな言葉ないですかね。😁 文章作成のクセと言いたかったんです。

*5:そんな話はつまらん!😁

*6:くどいようですが、私は東京人なのでこの大阪弁は間違っているかもしれません。以下同様