必ずブランディング通になれる3分で読めるエッセイ〜ブランドのチカラ

ブランディング・コンサルタントの経験譚。Barで若きマーケーターとスコッチ飲んで話す気分で。ブランディング & マーケティング・コミュニケーションのあれやこれや。毎週土曜日に。

其の15 PR考 ②

f:id:brandseven8:20200822085058j:plain  PR会社コミュニケーションデザインの社長、玉木剛さんの著書「戦略PRの仕掛け方」の第1章のタイトルは「なぜ、マス広告は効かなくなったのか?」。

  広告代理店の幹部、特にテレビや新聞のマス媒体の幹部が聞いたら血圧が上がりそうですが、玉木さんがこの本を出したのは10年以上前の2009年のことです。

  同じことを前ネスレ日本社長の高岡浩三氏が言っていたように思います。「戦略PRの仕掛け方」第1章でそのネスレ日本キットカット受験キャンペーンを手掛けた元JWTジャパン*1のクリエイティブ・ディレクターである関橋英作氏にインタビューしています。

  関橋氏の発言。

  「広告が効かなくなったのは、要するにプッシュ*2ではなくてプル*3の時代に入りつつあったからなのに、(広告主は) さらにプッシュを3倍にも、5倍にも、10倍にもしろということですから。その結果、消費者にかえって届かなくなっていきました。マス広告崩壊の一つの大きな原因として、それはすごく大きいと思います。」

  そして玉木さんは関橋CDへのインタビューから、脱広告の戦略PRの成功例としてキットカットの行ったキャンペーンを紹介していきます。前出のキットカットに関するブログと被る部分ありますが、ご容赦ください。

  “キットカットというチョコレート菓子は、その味わいが機能価値になるのだが、そこでの大きな差別化は難しい。そこで、その味わいがもたらす感情の価値(情緒的価値)に注目。

  「ちょっとブレイクしない? 」というキャッチコピーはメインターゲットである高校生たちの共感は得られていなかった (キットカットの世界的キャッチコピーは長年Have a break, have a Kit Kat 。 Have a break は、ちょっとひと休みしなよ、という意味)

  そこで情緒的価値を「ストレスからの解放」と読み込み、ブランドのコンセプトを「高校生をそっと応援し勇気付けるブランド」とした。
  
  その頃ネスレコンフェクショナリーの社長 (後にネスレ日本初の生え抜き日本人社長となる高岡浩三氏)の耳に入ったのが、福岡弁で「きっと勝つ」を「きっとかつとお」と発音するという話。ここから、受験生を控えた高校生たちを応援するブランドとしてのキットカットが考え出されていく。

  まずはサンプリングから入った。「キットサクラサク」と印刷されたポストカードに一箱のキットカットを添えたものを用意し、受験生が宿泊しているホテルのスタッフから「頑張ってくださいね」と、受験生に手渡してもらった。心細い状況、受験の緊張も高まっている時に受けた応援に、お礼のハガキが沢山届いたという。

  こうした地味な活動がやがて高校生の間に口コミで広がり、ネットでの人気投票で受験のお守りとしてキットカットが二位に選ばれ、結局朝日新聞天声人語で取り上げられる社会現象へとなっていく。

  小さなサンプリングで始まった試みは、電車の車体を桜の絵で埋め尽くした「きっとサクラサクよ!トレイン」などさまざまなキャンペーンへ発展していき、高校生の共感をつかみブランド確立に成功した。”

  キットカット のケースを玉木さんは「戦略的PR」として紹介しています。クリエイティブ・ディレクター関橋さんの次の言葉は示唆的です。

  「僕が関わったキットカットのケースではマス広告からの脱却という意味で大成功したんですが、それを意外にも誰も真似しようとしないんです。あれは偶然でしょう、ラッキーだったんじゃないですか、という話で終わらせてしまう。なぜかというと、キットカットのようなキャンペーンは非常に手間がかかるからです。一方でテレビCMは簡単で、つくって流せばドーンとお金が入ってくるので (広告代理店的には)効率的です。」

  自分が昔やっていたので分かるのですが、広告代理店の営業視点から言うと、テレビCMは制作発注を広告主から広告代理店がゲットするまでが、関橋さんが言うのに反して実に艱難辛苦な道のりで、決して「簡単」ではないのです。😭 
  まぁ、クリエイティブ・ディレクターという人種はそう言いますね。でも、それでいいんです。水面下の苦労なんか知って忖度したら、いいCMはつくれません。

  つくった後は「流せばドーンとお金が入ってくるので (広告代理店的には) 効率的」というのは、すみません、ホントです。
  キットカットのような非常に手間がかかり脱広告 (脱マス広告) 的なことは (広告代理店は) やりたがらないというも、これも、すみません、ホントです。ただしこれについては解説が必要です。

  手間がかかるという表層的な事象ではなく、もっと本質的なことです。広告主、広告代理店の双方に関係するビジネスの本質的なこと。つまり、格好つけて言うならマネタイズの方法が確立していないのが原因なんです。

  ありていに言えば、カネにならないから広告代理店はやらないのです。逆に言えば広告主が魅力的な報酬を担保しないから広告代理店はやらないのです。

  ビジネスの要諦はヒト・モノ・カネとよく言われますが、その三大要素の一つ、カネが担保されていないのです。

  では前出のJWTジャパンは何故ネスレ日本の「手間のかかる」キットカット の仕事を営々とおこなったのでしょうか。これは企業がPRを持続的に、広告よりも効果的に実行していく為に関係してくる話でもあります。とてもcritical*4な話です。

それは次回に。

*1:米国の大手広告代理店ジェイ・ウォルター・トンプソンの日本法人。世界最大の広告代理店グループWPPの一員。

*2:企業発信の消費者に対するメッセージ・デリバリーのこと

*3:消費者側が能動的に情報を取りに行くこと。

*4:極めて重要、を意味する英語。欧米企業でよく使われる言葉です。この言葉を聞くと、ヤバイ、と緊張します。